(写真はすべてイメージです)
配偶者や恋人など、親密な関係にある(あった)人から受けるDV。これは身体的なものに限らず、心ない言動による精神的なもの、生活費を渡さないなどといった経済的なもの、性的なものなど、さまざまな形が存在します。シングルマザーの中には、こうした被害による抑圧から、自立への一歩がなかなか踏み出せない人も少なくありません。そのようなDV被害を受けた女性とこどもが社会で生き生きと暮らすために幅広く支援するのが、NPO法人女性ネット「Saya-Saya(さやさや)」です。その取り組みや思いを、共同代表理事の波多野律子さんにうかがいました。
――「Saya-Saya」設立のきっかけを教えてください。
私たちは、DV防止法の制定(2001年)より前となる2000年6月に設立された団体です。共同代表で立ち上げたのは、男性の暴力から避難するために全国初のDVシェルターである「AKK女性シェルター」を設立した野本律子さんと、現在Saya-Sayaの代表理事を務める松本和子さん。DV問題の解決には中長期的な支援が必要なのに、DV防止法では被害者を守れるのは短期間であることから、2、3年にわたってサポートできる団体として設立しました。
――具体的には、どのような取り組みを行っているのでしょうか?
DV被害にあった女性やシングルマザーのために、電話やLINEなどによる相談や、緊急一時保護(シェルター)の退所後、住環境を提供するといった生活支援を実施しています。被害にあった方が社会生活を再建するための拠点となる「ステップハウス」の運営もそのひとつです。また、被害によって低下した自尊心を高めるプログラムのほか、DVへの理解を深めるための講演会や勉強会を行うなど、幅広く支援しています。
「DV 女性 支援 団体」などのキーワード検索でインターネットから見つけてもらえるのか、相談の電話は全国からかかってきます。また、自治体の相談員や通院する心療内科からの紹介など、被害者の方と私たちがつながる経緯はさまざまです。
――支援活動を行うにあたって、抱いている思いや目指すことを教えてください。
女性に生きやすい社会は、こどもにも男性にも生きやすい社会であり、そうした社会をつくりあげようというのが、Saya-Sayaの目標。個人的には、性別などで役割を固定するジェンダーロールの問題が根強くあると感じています。Saya-Sayaでは、次世代向けに暴力防止の講座を開いています。自分を大切にして相手も尊重するためのスキルを身に着けてもらい、ジェンダーに対する感覚を変えていけたらと思っています。
――DV被害者の方がシングルマザーになるまでには、どのような困難があるのでしょうか?
「DVの被害者は、加害者の家に7回戻る」といわれるように、夫と離れて支援を受けていても、最初のうちは精神状態が不安定なせいもあり、想定外のことが起こると家に戻ってしまうんです。さらに不安定になりやすいのがこどもたち。中には母親やきょうだいを守るために無理をして、心が限界を迎える子もいます。
――その段階で暴力による支配から抜け出すには、何が必要なのでしょうか?
被害者が安心できるような支援をするには、日常的な不安をきちんと聞く仕組みづくりが大切。たとえば、「近所の人にゴミの出し方を注意された」といったちょっとした困りごとを話してくれてもいいですし、「昨日は何を食べた?」などの何気ない会話でもいいと思います。Saya-Sayaでは、必要であれば弁護士との面会や役所の手続きにも同行します。とにかく被害者のそばにいて、ひとりにしない。私たちはそう心がけて、互いの信頼関係を築くようにしています。
――シングルマザーになってからも、やはり不安や苦労はあるかと思います。
被害者の中には、自己否定的な気持ちに陥る人もいるでしょう。たとえば、結婚時に夫から退職を求められ、従ったことを「愚かだった」と考えたり、結婚後も働く女性に対して「悔しい」と思ったり。また、怒鳴るなど威圧的な手段で物事を解決する夫の影響を受け、周囲に対して同様の暴力行為に及んでしまうこともあります。これはこどもに対しても、こども自身にも起こり得ることです。
夫から離れるために人間関係などをすべて捨てた場合は、居場所がなくて悩む人もいます。でも、これは個々で解決できる問題ではありません。近年、社会全体に「自己責任」という言葉が行き渡り、「こうなったのは私のせい」と苦しむ人もいます。そういった人たちがもともともつ力を引き出し、「私はあれもこれもできたんだった」と思い出してもらうようなエンパワーメント支援は、私たちにとって大事な活動のひとつです。
――Saya-Sayaの活動のひとつ、「DV被害にあった女性と子どものための支援プログラム 凜(Ring)」について、具体的な活動内容をお聞かせください。
凛(Ring)は、DV被害によって心に傷を負った女性とこどもを対象にしたプログラムで、心身を癒して自立への土台をつくり、自尊心を取り戻して生き生きと社会に出ていくことが目的です。
例えば、「びーらぶプログラム」は、母親、こどもがそれぞれ分かれて、グループで暴力について知ったり、暴力を使わずに心の葛藤を解決したりする方法などを学んだりします。こどものグループでは、怒りを我慢せず、少しずつ自分の気持ちを出す感覚をつかむために風船をふくらませるなど、みんなで遊びながら学べるのが特徴。一方、母親のグループでは自分の経験を同じ立場の人に話し、分かち合うことで、自分の力や社会とのつながりを取り戻すことを目的としています。
「てらこやミモザ」はシングルマザーのこどもを対象に、学習支援や生活支援、食事提供を行うもの。曜日を決めての開催なので、つながりや人間関係を構築し、生きていくために必要な心の居場所をつくっていくことができます。
また、宿泊型ワークショップとして、小学生とその母親を対象にした「女性と子どもの夏のワーク」も用意。毎年、夏に自然の中でアクティビティを楽しんだり、母親同士が草木染をしたりミーティングをしたりする1〜2泊の旅行です。体も使いながら楽しく遊べて、実家を頼れない場合でも夏休みの思い出をつくってあげられます。
――DV被害者女性を対象とした自立支援プロジェクトについてもお聞かせください。
自分らしい一歩を踏み出すために、自身の力を引き出す「燦(SUN)プログラム」ですね。こちらはDVのメカニズムを知る、気持ちの整理、就労支援講座、対人関係スキルの習得など4つのステップがあり、参加者が希望すれば、凛(Ring)と同時に受けることも可能です。参加費用はプログラムによって変わり、無料もしくは1回あたり500円となります。
――参加した方々には、どのような変化がありましたか?
順調に回復して元気になる人、時間がかかる人と、本当にいろいろ。でも、ちゃんと行き先を見つけた人や再婚した人もいます。「助けて」と言ったり、家を出たりするのはものすごい力が必要ですが、彼女たちは困難に立ち向かう力を備えていると思います。そうやって不安に耐えて未来を切り拓いていく彼女たちを、私たちは支えられたらと考えています。
――最後に、ひとり親の方や、ひとり親になる方へのアドバイスをお願いします。
公的な支援について知り、活用してほしいですし、私たちのような民間支援団体は各地にあります。諦めず、信頼できる人を見つけてもらえたらと思います。自治体でも私たちのような支援者が担当することもあるので、ぜひ頼ってください。 幼いころから、周りに「自己責任」と言われているかもしれませんが、今、この日本にある社会問題で個人が原因のことは、あったとしても小さな一部分だと思っています。ひとり親になった方は、自分の力を信じて、支援者に「助けて」と言ってください。完璧でも強くもなくていいので、自分のために立ち上がって、危害を加える人と離れることを望んでいます。
波多野律子さん
社会福祉士、精神保健福祉士。NPO法人 女性ネット
Saya-Saya共同代表理事。アルコール依存症の夫をもつ妻としてAKK(アルコール問題を考える会)に参加したことがきっかけで、当時勤務していた出版社を退職し、「AKK女性シェルター」の運営に関わる。Saya-Sayaには設立当初から携わり、各地で講演なども行っている。