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「お互い様」が支える職場
こども家庭庁表彰企業に学ぶ、ひとり親就業支援

子育てと仕事を一手に担うひとり親にとって、安定した就業を続けることは時に困難も付きまといます。こうした課題を解消するには、制度を設けるだけでなく、休みやすい職場環境や、互いに支え合える組織づくりも欠かせません。こども家庭庁が表彰した、ひとり親の就業支援に積極的に取り組む5社の事例から、働き続けやすい職場をつくるための工夫を紹介します。

ひとり親家庭の自立のためには就業支援が特に重要です。こども家庭庁では、「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業」として、ひとり親の就業に力を入れている企業を表彰しています。2025年度は、社会保険労務士法人 和、株式会社エルダーテイメント・ジャパン、株式会社シルバーネスト、医療法人凰林会、FitLIFEDESIGN株式会社の5社が選ばれました。

それぞれの代表者や担当者に、ひとり親の雇用に積極的な理由や企業にとってのメリットを聞きました。

社会保険労務士法人 和

社会保険労務士法人 和

大阪府大阪市の社会保険労務士法人 和は、従業員の過半数、さらに管理職の半数以上を女性が占める団体です。子育て中の社員だけではなく、すべての社員がワークライフバランスの取れた働き方ができるよう、さまざまな取り組みを実施しています。

例えば毎週水曜日に「ノー残業デー」、毎日7時から9時半まで30分単位で始業時刻を選択できる「時差出勤制度」を設けています。社員旅行や味覚狩りイベントなど、福利厚生行事にはこども同伴で参加が可能。こども同士が仲良くなり、社員の仲が深まるなど、社内の風通しの良さにつながっています。

創業者の岡野恵美子さんは、ひとり親雇用の経緯や働き方の変化について次のように語ります。

「以前は『こどもが小さく残業ができないため、正社員では迷惑をかけてしまう』と、最初からパートタイムを希望される方が主流でした。しかし現在では働き方が多様化し、『準社員』という制度を利用して、正社員の一歩手前からチャレンジする傾向が見られるようになりました」

同法人独自の「準社員」は、基本は残業がなく、土曜日や祝日の勤務がないことが前提となっています。クライアント都合により土日の打ち合わせが発生することもありますが、チームを組んで担当することで無理のない勤務体制を敷いています。

こどもの学校行事や休校等で出社が難しいときは、テレワークへの切り替えも可能。会社としての姿勢を明確に示しています。

「『小学校の運動会はその日しかないのだから、そちらを優先してあげなさい』と伝えています。日頃から『突然の行事が入ったとしても、みんなでカバーし合って業務調整するか ら遠慮なく伝えてほしい』と呼びかけ、休みやすい空気づくりを心がけています」

一方で、「ひとり親を優遇している」と捉えられない公正な制度が必要という冷静な見解も示します。

「子育て手当は通常1万円、ひとり親を1万5000円に設定しています。差額の5000円を『手当』ではなくひとり親控除のような所得控除で支援できる方法があれば、ほかの従業員から見えづらくなり、ひとり親の方がもっと働きやすくなるのではと考えています」

最後に岡野さんは他の企業へ次のメッセージを送ります。

「こどもがいるかどうかにかかわらず、急な退勤は誰にでも起こり得ます。そこは企業がどう腹をくくって対応していくか、割り切るしかないと思います」

株式会社エルダーテイメント・ジャパン

株式会社エルダーテイメント・ジャパン

千葉県千葉市の株式会社エルダーテイメント・ジャパンは、介護・保育・障害福祉事業を展開する約200名の組織です。対人援助の現場では、多様な人材の定着が経営上の重要課題となっています。同社の強みは残業が少ないことに加え、子育てや親の介護等の経験を持つ職員が多い点にあります。

総務の寺井剛敏さんは、社内の支え合いの風土についてこう話します。

「こどもが急に発熱した際も気兼ねなく休める雰囲気があります。シフトを代わってもらった職員が、今度は別の職員が休む際に代わりに出勤するなど、『お互い様』の精神で協力し合う風土が根付いています」

こうした助け合いを可能にしているのが、日々の朝礼での徹底した情報共有と、急な欠勤でも現場が回るよう余裕を持たせた人員配置です。実際にシングルファーザーとして働く機能訓練指導員の男性(匿名)も、働きやすさを実感しています。

「小学1年生と、3歳のこどもがいます。自宅と職場の間に保育園があるため、送り届けてからそのまま出勤し、延長保育を使わずに18時までに迎えに行くというサイクルが無理なくできています」

また、同僚からの温かいサポートについて、「休みが増えて申し訳ないという気持ちもありますが、周囲から『大変だったね、大丈夫だよ』と温かい声をかけてもらえるため、心理的な負担を感じることなく働けています」と語りました。

寺井さんは他の企業に向け、「特別な支援制度を設ける以上に、日々の声かけから『多様な事情に共感し合える土壌』を作ることが重要です。それがひとり親に限らず、全従業員が長く活躍できる組織づくりに繋がると考えています」と締めくくりました。

株式会社シルバーネスト

株式会社シルバーネスト

株式会社シルバーネストは、和歌山県和歌山市で在宅介護サービスを提供する企業です。本部事務局の越野公爾さんは、子育て世代の介護職が直面する現実に疑問を抱き、独自の働き方支援を始めました。

「こどもがいると雇用の契約内容や処遇で不利になる、復職したら正社員から外され収入が落ちてしまうという業界の現状に疑問を感じました。復帰後も働きやすく、正社員と同等の身分を保障する雇用形態を作るべきだと考えたのです」

この問題意識から、勤務時間を選択できる労働契約を明確にし、土日の出勤義務がない時短勤務などを導入。月160時間働いた場合は正社員と全く収入が変わらない仕組みを作ることで、ひとり親の人も安心して働ける体制を整えました。

勤続10年目になるシングルマザーの北野摩矢さんは、自社の魅力をこう語ります。

「こどもは14歳になりましたが、幼いとき、体調が悪化して『もう休んでいいよ』と快く送り出してもらえるのが何よりもありがたかったです」

このような環境づくりの根底には、経営陣の継続的なメッセージの発信があります。

「『お互い様』の意識を持つことが大切。何か困ったことがあれば口に出せばいい、いざというときは会社にこどもを連れてきても構わないと伝えています」と越野さんはコミュニケーションの大切さを強調します。

「我々が行う在宅介護には、最後まで住み慣れた場所で暮らしていただくため、お客様一人ひとりを理解し、柔軟に対応することが求められます。互いの事情を理解し支え合う企業風土が醸成されれば、それが事業の質の向上にもつながると信じています」

医療法人凰林会

医療法人凰林会

三重県津市の医療法人凰林会は、365日24時間体制で患者や利用者のケアを行う医療・介護施設を運営しています。郊外に位置する施設では慢性的な人材不足が課題となっており、同法人では9年ほど前から、ひとり親をはじめとする多様な家庭環境の人が働きやすい職場づくりを推進してきました。

同法人の特徴的な働きやすい支援の一つが、いつでも利用可能な院内託児所の設置です。専属の保育士が常駐しており、生後6か月から小学校入学前までのこどもを、親の就業時間に合わせて預かる体制が整えられています。

また、従業員のライフステージの変化に応じた「正社員とパートタイムの柔軟な契約変更」も大きな強みです。同法人における正社員は「夜勤を含む制約のない勤務が可能な人」と定義されており、子育てなどで勤務時間に制限が生じた場合は、一時的にパート契約への変更が可能です。そして、こどもの成長などで再び制約なく働けるようになれば、いつでもすぐに正社員へ戻ることができます。

正社員のまま時短勤務を導入するのではなく、あえて雇用契約を変更する理由について、法人本部総務課の杉山輝昭さんは次のように説明します。

「正社員のまま時短勤務を許可すると、『なぜあの人だけ』とチーム内に摩擦が生じる懸念があります。あえてパート契約とし、条件を明確にすることで、本人も気兼ねなく定時で帰ることができ、周囲も『時間だから上がりなよ』と声をかけやすくなります。結果として、チームワークがうまく回ることに繋がっています」

実際に入社から9年目を迎えるシングルマザーの榎本美和さんは、この柔軟な制度を利用してキャリアを築いてきました。

「入社当時はこどもが小学2年生と6年生だったため、日勤のみのパート契約で採用していただきました。入社から1年ほど経った頃、上司から『夜勤ができるなら正社員になれるよ』と声をかけられ、パート契約のまま夜勤のお試しをさせてもらいました」

夜勤に挑戦する際も、こどもの学校や部活に支障が出ないよう、金曜日や休前日にシフトを組むなど周囲からの手厚い配慮があったといいます。

「子育てを終えた先輩方が多く、私が困っていると色々と助言をして助けてくれました。現在はこどもも20歳を過ぎて手が離れたので、自分が働きやすかったように、次は同じ立場の人が入ってきたら同じように助けてあげたいです」と、榎本さんは笑顔で語りました。

FitLIFEDESIGN株式会社

FitLIFEDESIGN株式会社

FitLIFEDESIGN株式会社は、長崎県諫早市で介護事業を展開し、今年で13期目を迎える企業です。創業当初からひとり親の社員が在籍していた背景があり、「スタッフが長く働きやすい環境づくり」に力を入れてきました。

働きやすさを支える具体的な制度の一つが、「1時間単位の有給休暇取得」です。こどもの急な体調不良や学校行事の際、半日や2時間の休暇では時間が余って有給を無駄にしてしまうという声から、より細やかに柔軟に休めるよう導入されました。

また、キャリアアップ支援にも注力しています。以前は泊まりがけで出向く必要があった研修をウェブ受講に切り替えることで、子育て中の社員も就業時間内にスキルアップを目指せる環境を整えました。さらに、直属の先輩には言い出しにくい悩みを気軽に相談できるよう、業務上の利害関係が少ない別部署のスタッフを「相談係」として配置する心理的な工夫も行っています。

入社時からシングルマザーとして働く尾上聖架さんは、当時の苦労と会社のサポートについて次のように振り返ります。

「入社当時はこどもが0歳と2歳で、頻繁に熱を出して早退や欠勤を繰り返していましたが、会社の理解とスタッフの皆さんの協力のおかげで働き続けることができました。こどもが小学生になった現在も、学童の迎えに間に合うよう、16時半に退社しています。成長段階に合わせて柔軟に対応していただき、仕事と子育ての両立ができています」

こうした柔軟な働き方を現場で可能にしているのが、業務の属人化を防ぐ取り組みです。同僚の三池仁さんは、「特定の業務を一人しかできない状態を作らず、誰かが休んでもすぐに別のスタッフがカバーできる分担体制ができています」と、気兼ねなく休みを取りやすい職場の魅力を語りました。

代表取締役の坂枝真一さんは、多様な人材が活躍できる組織づくりについて次のように語ります。

「ひとり親だからといってキャリアアップの機会を奪わず、誰もが挑戦できる環境を整えたいです。チームの文化をつくるため、会社負担の親睦会を開催し、社員同士のコミュニケーションを深める取り組みも行っています。深刻な人手不足が続く介護業界において、従来の考え方にとらわれず、多様な人材が活躍できる土壌をつくることが、今後の企業運営において不可欠だと考えています」

誰もが働きやすい社会を

「子育て中であっても、正社員と同等の待遇を保障する」「あえて契約体系を分け、勤務条件を明確にすることで、気兼ねなく休める環境をつくる」など、支援に対する考え方や制度は企業によってさまざまです。

一方、各社に共通していたのは、業務の属人化を防ぎ、誰かが休んだときにも支え合える「お互い様」の文化を職場に根付かせていることでした。介護や病気など、外からは見えにくい事情を抱えているのはひとり親に限った話ではありません。誰もが働き続けやすい職場をつくることが、結果としてひとり親の就業支援につながっているようです。

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