離婚のときに話し合っておくべきこととして、養育費や親子交流があります。「養育費・親子交流相談支援センター」は、こども家庭庁の委託を受け、養育費や親子交流に関わる悩みについて、無料で相談を受け付けています。「こどもの健やかな成長を支えるために、諦めずに相談してほしい」と語るセンター長の工藤眞仁さんに、利用の流れや受け付けている相談、対応について聞きました。
――センターでは、養育費や親子交流についての悩みを無料で相談できるそうですが、どのような形で相談を受けているのですか?
電話、もしくはメールでの相談が基本になります。また、当センターのホームページで、チャットボットによる質問も受け付けていますので、ご利用ください。メール相談への回答は、遅くとも2営業日以内に返信していますが、お急ぎの場合は電話のほうがよろしいかもしれません。電話相談は、水曜日であれば夜10時まで受け付けていますし、土曜日や祝日も対応しています※。相談回数に制限はありませんので、何度でも無料でご利用いただけます。どうしても電話やメールでは相談しにくいといった事情がある場合には、その旨をお申し出いただければ、対面でお話を伺うことについて検討させていただきます。
※電話の受付時間は、月・火・木・金曜は午前10時~午後 8時、水曜は午後 0時~午後10時、土曜・祝日は午前10時~午後 6時(日曜・振替休日は休み)
――「離婚するかどうかを迷っている」「養育費を請求したいかどうかもわからない」といった、初期のモヤモヤした段階での悩みでも受け止めてもらえるのでしょうか。
もちろんです。離婚前後は気持ちが揺れ動きますし、考えを整理するエネルギーも不足しやすいものです。何をどう困っているのかもわからない段階でも差し支えありませんので、ご相談いただきたいと思います。相談員は、私を含めて皆さん元家庭裁判所調査官ですので、養育費や親子交流に限らず、離婚前後に関わることについて幅広く対応することができます。
実際のご相談も、養育費や親子交流のことに特化されているケースばかりではありませんし、ご相談の内容が多岐にわたっていて、1つにまとまっていないこともままあります。
――そのような場合は、どのように対応されるのですか?
相談者の方が現在おかれている生活環境や様々な事情などを1つずつうかがいながら、何に困っていらっしゃるのかを一緒に整理していきます。ただし、やっとの思いで電話をかけていらした方や感情的に揺れ動いている方など相談者の状態は様々ですので、無理にお話を聞き出したり、答えを求めたりすることはせず、相談者のお話にじっくり耳を傾けることを意識しています。
――養育費の取り決めは、一般的にどのような流れで進んでいくのでしょうか。
基本的には、父親と母親の話し合いで、毎月の金額、毎月の支払い期日、支払いの始期と終期、具体的な支払い方法などを取り決めることになります。父母の話し合いで合意ができた場合は、口約束ではなく、少なくともお互いの合意文書を作成することをおすすめしています。2026年4月施行の民法改正により、将来的に養育費の不払いがあった場合に、しっかりとした合意文書を作成していれば、担保権の実行により、取り決め額(取り決め額がこども1人当たり月額8万円を超える場合には1人当たり月額8万円まで)について差押えができるようになりました(2026年4月1日以降に生じる養育費に限ります)。さらに、公証(こうしょう)役場に父親と母親とで出向き、 公証人 が作成する公的な文書「公正証書 (強制執行認諾条項 付き※1)」が作成できると望ましいと考えます(2025年10月からウェブ会議による作成も可能となりました)。公正証書があれば、不払いがあった場合に強制執行により、取り決め額(上限なし)について差押えが可能になります。
――取り決めがスムーズにいかない場合は、どうすればいいのでしょうか。
当センターへの相談で多いのは、実際に、取り決めがスムーズに進まず、合意ができなかったケースです。この場合は、家庭裁判所に養育費調停を申し立てることができます。裁判所での調停というと、手続きや費用面などでハードルが高いと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際には複雑な手続きが必要なわけではありませんし、父母双方の間に調停委員が入って話し合いの調整をしてくれます。調停は、相談者ご自身の意見を踏まえながら進められます。個別の事情に応じて、裁判所で相手と顔を合わせることがないよう工夫される場合も少なくありません。また、遠方に住んでいて調停等を行う家庭裁判所まで出向くことが困難であるなど、個別の事情に応じて、電話やウェブ会議で調停に出席することができる場合もあります。調停の申し立てにかかる費用は、こども1人につき手数料の収入印紙1200円と千数百円の郵便切手代程度です。
相談を受けた際には、できるだけ調停に対する不安が和らぐように、申し立ての具体的な手続きや費用、それから実際の調停がどのように進められるかについて、分かりやすくお伝えするようにしています。
――養育費の取り決めを進める際に、相談者がつまずきやすいのはどのようなことでしょうか?
離婚をすること、また離婚を決めることには大きなエネルギーを使うため、様々なことを考える余裕がなくなる場合があります。そのため、養育費の取り決めをせずに離婚したり、合意できずに諦めてしまったりすることもあります。たとえそうであっても、養育費は、こどもが経済的、社会的に自立するまでは、いつでも請求できるものです。「相手と関わりたくない」「手間がかかるから踏み出せない」といった理由で、諦めてしまうことも多いようですが、こどもの成長に伴って、衣食住や教育にかかる費用は増えていきますので、できれば、先々のことまで考えて諦めないでほしいと願っていますし、少しでもお手伝いができればと思っています。
最近は、民法改正によるご相談も増えています。2026年4月以降に離婚した場合には「法定養育費(※2)」が発生するなど、新たなルールによる疑問もあるかと思いますので、そうした細かい質問でも遠慮なくご相談していただきたいと思います。
※1養育費について取り決めた内容に加えて、養育費を支払う義務を負う人が、支払いが滞った場合には直ちに強制執行を受けてもやむを得ないと言ったことが記載されている公正証書
※2離婚時に養育費の取り決めがなくても、離婚のときから引き続き子の監護を主として行う父母が、子1人当たり月額2万円の養育費を請求できる制度で、あくまでも養育費を取り決めるまでの暫定的なものです。
――収入減少や再婚、病気など、養育費を取り決めた時から状況が変化していくこともあります。
離婚時に養育費の取り決めができていても、「収入が大幅に減って厳しい」「再婚して扶養家族が増えたので余裕がない」といった理由で支払う側が減額したい場合や、「こどもが大学に進学して教育費の負担が大きい」「大きな病気で多額の治療費がかかる」といったことから受け取る側が増額したい場合など、養育費を取り決めた時には想定していなかった事情が生じることがあります。養育費は、一度取り決めると変えられないと思われがちですが、両親でその都度話し合って、変更することができるものです。変更について話し合いができないか、話し合いをしても合意が得られない場合は、家庭裁判所に養育費の減額や増額の調停を申し立てることができます。相談される方の中には、養育費について困っていても、相手と関わりたくないからと、そのままにしている方がいらっしゃいますが、先ほどもお話ししたように、調停を利用すれば、相手と顔を合わせることなく取り決めることもできます。当センターでは、養育費を取り決める際だけではなく、その後の事情の変化などによる悩みについても相談を受け付けています。
――親子交流の取り決めは、どのように行うのですか?
こどもが安全に安心して別居親と交流できるように、親子交流の頻度、時間、場所、送り迎えの方法のほか、「相手の悪口を言わない」「約束を守る」といった親同士が守らなければならないルールなどについて、こどもの利益を最優先に考え、基本的には、父母双方で話し合って取り決めることになります。こどもの年齢や生活状況を十分に考慮して、父母もこどもも無理のないように決めることが大事です。父母の話し合いで取り決められない場合は、家庭裁判所の親子交流調停を利用することができます。
――親子交流に関して、特にどのような相談が多いですか?
こどもと同居している方からの相談で多いのは「DVやモラハラをしていたような相手にはこどもを会わせたくない」といった悩みです。一方で、こどもと別居している方からは「突然、配偶者とこどもが別居してこどもと会わせてもらえなくなり、こどもの様子が心配だ」といった相談が多いと感じます。
――そのような相談に対して、どのように対応されるのですか?
親子交流において、もっとも大事なことはこどもの気持ちや立場を考慮することです。どのような相談であっても、この点は同じです。親子交流については、親の権利や義務という考えからはいったん離れていただいて、こどもの視点に立って、こどもの利益という観点から考えていただけるようにお話をしています。
それを踏まえて、先ほどの「相手にこどもを会わせたくない」というケースについては、まず相手がこれまでこどもにどのように接していたのかをうかがいます。もちろん、こどもへの暴力の危険がある場合など、親子交流を控えることを検討すべき場合もありますが、「こどもに対して虐待をするようなことはなく、よく遊びに連れて行ってくれた」といったお話をされる方もいらっしゃいます。仮にそうであれば、こどもや同居親の安全・安心に十分配慮したうえで、「別居親は、お子さんにとっては大切かもしれません。お子さんに無理のない範囲で定期的に親子交流を実施するほうが、お子さんの成長のためにも良い影響があるのではないでしょうか」といったお話をさせていただきます。
――こどもに会わせてもらえないという相談の場合はどうでしょうか?
こどもに会えなくなった経緯や現在の状況をうかがいます。そのうえで、家庭裁判所の調停を利用できることやその具体的な手続きについてご案内しています。
調停では、事案に応じて、こどもの発達や心理の専門職であるスタッフが、こどもとの面接や親子交流場面の観察などによってお子さんの心情や意向を把握し、その結果を父母と共有したうえで、調停委員が父母双方の間を調整し、親子交流の条件や約束事などの取り決めを進めていきます。
親子交流調停の手続きや費用は養育費調停の場合とほぼ同じですが、取り決めに当たっては細やかな配慮が必要になりますので、父母が合意に至るまでには少し時間がかかる傾向があります。
――相談を受けるなかで、法的なサポートが必要だと判断した場合は、どのように対応されていますか
当センターでは、相談者からお話をお聞きし、法律上どのような問題があるかを整理し、一般的な考え方や取り得る手続きなどを助言しています。ただし、法律上の解釈やそれに基づいてどのように行動すべきかといった個別具体的な内容については、相談の範囲を超えますのでお答えすることができません。そういった場合は、無料法律相談や弁護士費用の立て替えなどの支援がある「法テラス(日本司法支援センター)」や、相談者がお住いの自治体で実施している弁護士による無料法律相談をご案内しています。
そのほか、相談のなかで就労や 生活困窮 など、ひとり親家庭の生活全般の課題が見えてきた場合には、各自治体の福祉窓口やひとり親支援の窓口などをご案内することもあります。離婚の問題によって精神的に 疲弊 している相談者の場合には、対面での温かなやり取りが役立つこともありますので、そうした場合には、相談者のご自宅近くの相談機関などをご案内することもあります。
――これからひとり親になるかもしれない人や不安や悩みを抱えているひとり親に向けて伝えたいことはありますか?
離婚や別居によってこどもたちは、たとえ一方の親と離れて暮らすことになったとしても、養育費や親子交流によって、父母共に自分のことをかけがえのない存在だと思ってくれていると実感することができます。そのことは間違いなく、こどもの深い安心感と自尊心を育むことにつながるはずです。養育費と親子交流はこどもの健やかな成長を支えるための車の両輪にもたとえられます。本人の意向や状況に応じて柔軟に対応することが前提ですが、どちらもお子さんのためにはとても大切なものです。
当センターでは、養育費や親子交流に向けての話し合いができないか、あるいは話し合いをしても合意が得られない方たちが、お子さんのために、そしてご自身のより豊かな生活に向けて、一歩でも半歩でも踏み出せるように、支援をしていきたいと考えて活動しています。
何に困っているのか、何を相談すればよいのかわからない、そういった状態でも差し支えありませんので、悩みや不安があればひとりで抱え込まずに、ぜひ当センターを頼りにしていただきたいと思っております。
工藤眞仁さん
令和6年4月にセンター長に就任。センターに勤める前は、区役所の家庭相談員や家庭裁判所の調停委員をしていた。それ以前は、家庭裁判所調査官として30数年にわたって裁判所に勤務。全国の家庭裁判所で家事事件(養育費、親子交流、遺産分割など)や少年事件(少年非行)を担当。裁判所勤務の経験を生かして、相談者とこどもが、より豊かな生活に向けて一歩でも半歩でも踏み出せるような支援を心掛けている。