男児出産から112日後、妻ががんで他界。フリーアナウンサーの清水健さんは、悲しみを背負いながらシングルファザーの日々を過ごしてきました。父子世帯は母子世帯に比べて圧倒的に数が少なく、その実態が陰に隠れがちという指摘もあります。父子世帯ならではの悩みと課題は……。清水さんに、ご経験や思いをうかがいました。
――ひとり親になった経緯をお聞かせいただけますか?
2013年に結婚して、その1年後に妊娠が分かりました。そして乳がんだということも分かってしまって。思うように治療ができない中、2015年に息子が元気に生まれてきてくれました。ただ妻のがんは全身に転移していた。息子が生まれて112日後、妻は僕たちの横からいなくなってしまいました。そこから父子2人の生活が始まったんです。
――生まれた喜びもつかの間っていう感じですね。
「まさか」の連続でした。妊娠して喜んだり、がんって言われてショックだったり。子どもが生まれてきてくれてすごく喜んで、でもその1週間後、がんが全身に転移していると言われ、なんでだ!って……。その繰り返しでした。
――そして、お子さんとの二人暮らしが始まるわけですね
はい。でも幸い近くに僕の母親が住んでいて、息子にとってはばあちゃんなんですけれども、そのばあちゃんの協力を得ています。僕の姉もサポートしてくれるので、家族のいろんな協力があって僕たち親子は暮らしていけています。
――いま、お子様は何歳ですか?
10歳になりました。小学4年生ですね。ということは、息子の母親がいなくなって10年。その数字がぴったり同じなんです。「悲しみを乗り越えて」と言われますが、決して乗り越えることはできません。
不思議なもので、時間がたつほど悲しみが深くなっていきます。息子がこんなに成長してるよ、一緒に見てよ、というふうにどんどん深まるのです。でも、そんな私の姿も含めて「こんなもんだよ」っていうのを少しでも伝えることができたらなと思います。
――悩みや苦しみを、「男だから」という理由で周囲に頼らず一人で抱え込んでいるシングルファザーの方は、まだまだたくさんいらっしゃいます。清水さんはいかがですか。
僕もすごく格好つけてしまうので、ほとんど誰にも相談してきませんでした。弱いところを見せたくないんです。自分の周りにバリアー(壁)を作っちゃって、自分からどんどん苦しくなってしまっています。
こういう言い方はよくないのですが、悩みを打ち明けたところで解決できるのか、と思ってしまうわけです。同様に妻を亡くされたシングルファザーの知人にも、同じようなことを考えている方は多いんですよ。「相談はしない」「悲しみやしんどさは、伝えても分かってもらえない」。決してそんなはずはないのに、勝手に自分でそう思って、自分の殻に閉じこもってしまう。
それでも、つらい胸の内を話したい時ってあるんですよね。相談ではなく、ただ話を聴いてほしい。そんな時に話せる場所や仲間がいてくれたらいいなと思います。
先日も、3週間前に妻を亡くされて、4歳と2歳のお子さんを抱えた方からメッセージが届きました。もう、言葉になっていないようなメッセージなんです。「つらい、しんどいです。どうしていいか分からない。もう頭が真っ白です」。
おそらくずっと我慢していたんだと思います。悩みが解決されるわけではないけど、弱音を吐ける場所があるのであれば、いっぱい話した方がいい。そうしないと自分が壊れてしまいますから。
―清水さんご自身は、お母さまやお姉さまに胸の内を話すことがあるのですか?
話せませんでした。頼ることができなかった。強がってしまって「(家のことは)ぜんぶ俺がやる」とはっきり言ったこともありました。
ただ息子が成長して行動範囲が広がると、僕一人ではできないことも増えてきて。最近やっと「ごめん、手伝ってもらえるかな」と素直に頼ることができるようになりました。10年かかっちゃいましたけど(笑)
――続いて「収入」というテーマでうかがっていきます。母子家庭に比べて一般的に父子家庭は収入が高い傾向がある、と言われています。その分、働く時間が長いとか子どもと過ごす時間が短い、といった指摘もあります。清水さんはいかがですか?
職業が最も影響してくるので、母子家庭なのか父子家庭なのかはここでは関係ないと思います。僕の実感ですが、ひとり親になると経済的な負担感はかなり増す印象です。決して楽ではない。職場の理解や待遇にもよりますが、かなり厳しい状況におかれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
――収入を維持するために仕事を変えられない、どうしても仕事を優先せざるをえない時もありますよね。そんな時、清水さんはどうしているのですか?
もう、息子よ、ごめん、です。「子どもが熱を出したので明日は休みます」って言えないんです。仕事を一番に考えてしまう。よくないことかもしれませんよね。でも、こういうところ、きっとみなさんめちゃくちゃ闘ってるんだろうなって思います。
僕としては、一緒にいる時間の長い短いではなく、一緒にいられる時間を大切にしたいと考えています。子どもはもっと甘えたいと思っているかもしれませんけど……。
――ママ友さんの輪に入りにくい、という声も聞きます。
なかなか入れないですよね! ものすごく勇気がいります。幼稚園の送迎バス待ちのときなんか遠慮してしまって。でも一歩入ると、みなさんとても優しい。よく気にかけてくれます。気軽に声がかけられるようになると「変に格好つけなくていいんだ」と思えるようになりました。
地域のお父さんお母さんたちと助け合っていくのは、とてもいいことだと思います。ちょっとしたことでもお願いすることで、肩の荷がおりるものです。そういうのに頼ることができるようになって初めて、自分の弱いところを認めることができるようになり、少し楽になった気がします。
――清水さんは同じような境遇のシングルファザーが集まるオンラインサロンを運営されていますが、そこではどのような声が寄せられますか。
例えば先日は、食事を作ってくれるサービスの話になりました。栄養面もしっかり考えてくれて週3日作ってくれる。「すごい」「うれしいなあ」って盛り上がるんですけど、一般的な料金を知って「ちょっと厳しいね……」。
みなさん本当に、いっぱいいっぱいで踏ん張っています。シングルに限ったことではないのですが、「もうこんな時間!」と食事の支度を考えて慌てて仕事を切り上げるシングルファザーはたくさんいらっしゃいます。「今日はもう作れないよ」と嘆く方もいらっしゃる。
そんな方々の本音を集める場所が、もっとたくさんあったらいいなと思います。声を吸い上げる場所があると分かったら、みなさん積極的に利用するでしょう。そうすればシングルファザーの実態がもっと分かるようになるかもしれませんね。
――最後に、シングルファザーやひとり親の方々に伝えたいメッセージがありましたら、お願いします。
格好つけている僕のように、心のどこかで「悩みや相談事を話しても意味がない」と考えてしまう気持ち、分かります。でも、矛盾していますが、いっぱい周りを頼ってください。仲間を探してください。絶対に、一人で潰れないでほしい。潰れてしまうと子どもを守れません。
あと、悲しみと一緒に生きていても、幸せになれると思うんです。悔しくて悲しくて、それを乗り越えることはできませんが、その悲しみを抱えながらでも、幸せは見つけられると信じています。僕自身も、その幸せを見つけていきたいなって思います。
清水健
1976年生まれ。大阪府出身。2001年、読売テレビ入社。報道番組のメインキャスターなどを務める。司会や講演会活動を行うとともに、がん撲滅や難病対策に取り組む団体や個人を支援している。17年、読売テレビを退社。現在はフリーアナウンサーとして全国を飛び回る。著書に「112日間のママ」(小学館)など。