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安藤真由美さん

ひとり親のマネー管理術は? 自分とこどもの「いま」と「未来」のために

安藤真由美さん

ひとり親がこどもとともに暮らしていくうえで、いったいどれほどのお金が必要でしょうか。「大黒柱としてしっかりしなければ……でも、お金のことは実はよくわからない」という人も、多いのではないでしょうか。お金のことをあらかじめよく知っておくことで、働き方や未来のプランも変わってきます。自分とこどもが「いま」と「未来」を前向きに生きるためのマネープランについて、ひとり親向けにもお金の講座を開催する専門家、安藤真由美さんに聞きました。

「自分を後回しにしがち」なひとり親

――だれにとってもお金の話がとても大切なのはもちろんのことですが、特にひとり親だからこそ抱えがちなお金の問題や悩みには、どんなものがあるでしょうか。

お金の問題は、皆さんにとって大切なテーマですが、ひとり親の方の相談に乗るなかで、「自分よりもまずはこどもにお金を使いたい」と考え、ご自身のことを後回しにしがちという傾向が特に見られます。

私がお会いした方たちはみなさん本当に愛情深い方ばかりで、お子さんのことを一番に考えてらっしゃるからこそ、自分にお金を使うことを後ろめたく感じている。中には、お金だけでなく、時間やエネルギーを使うことにも罪悪感を持っている方もいます。不安な気持ちを抱えながら、つい他の家庭と自分の家庭を比べて、自己肯定感が下がってしまうようですが、それはその方のせいではありません。

お金に関する不安は、わかっていない、きちんと全容を把握していないことが原因なので、まずは自分の「お金まわり」のことを把握する、ざっくりとでもいいのでわかった状態にすることで、解消することができます。

しかし、お金まわりのことを把握しようと思っても、いったん立ち止まって整理する余裕もないくらい忙しいひとり親の方も多いかと思います。お子さんが小さいと特に、身動きが取りづらく、将来のことを長期的に考えにくいと思います。どんな支援があるかも把握できないまま不安ばかりが募ってしまう。

お部屋と同じで、忙しいと整えるどころじゃないですよね。でも、そのままにしておくとどんどん雑然としてきて、視野もせまくなり、片付けられない自分のことが嫌になってしまう。そうなる前に一度立ち止まってお金のことを整理することが大切です。

お金のことを知れば自分に自信が持てる

――お金のことで不安に思うのはどんなことが多い印象ですか。

「将来食べていけるのか」といったことから、「こどもにかかるお金がどれだけ増えていくのか」といった不安などです。また、ひとり親であることから、「自分が病気にかかったら大丈夫なのか」などの心配もお持ちですね。

これもひとり親に限った話ではないのですが、個別のご相談に乗ると、みなさん収入や資産がいくらかといったお話をしますよね。一般的にみたら、これだけ稼いでいたり、これだけ資産があったりして問題無く暮らせますという場合でも、将来が不安だとおっしゃる方が多いのです。皆さん、漠然とした不安を抱かれている。それは「知らないから」なんですね。だいたいどのくらいのお金が将来必要か、とか、日々このくらい生活にかかる、とか、そういったことがわかってくると「大丈夫そうだな」と思えるようになります。

自分で自分のお金まわりを把握して整えると、自分に自信も持て、自己肯定感も高まります。「じゃあこうしてみよう」「自分は何をして生きていきたいのか」と考えられるようになり、自分に投資できるようになります。

「自分に投資する」というのは、お金をかけるということだけではありません。自分に対して時間やエネルギーをもっと使うことで、自分の価値を高めたり、自分が幸せだと感じられるようになったりし、「自分にOKが出せる」ようになるんです。

そうは言っても、やっぱりこどもを優先してしまう、という方はいらっしゃると思います。そういう方には、飛行機の話を例えに出してお話しします。緊急時に天井から降りてくる酸素マスクについて、航空会社は「まず大人が自分に着けて、それからお子さんに」とアナウンスしますよね。私も初めて聞いたとき、自分だったらこどもに先に着けてあげるなと思いました。でも、もしこどもが暴れるなどしてなかなか着けられず、もたもたしているうちに自分が倒れてしまったら親も子も助からないという考えのもと、航空会社は順序を決めていると聞きました。

やはり、自分が大丈夫なことによって、家族や大切な人を助けることができるのだなと。だから、ご自分に投資することを後ろめたく思わないでほしいです。

難しいことは不要 まずは家計簿からつけてみよう

――では、お金まわりのことを把握するためには何から始めたらいいのでしょうか。

私が勧めているのは、「まず家計簿をつける」ことです。家計簿というと何となく軽くみる向きもあるかもしれませんが、つけることで、まず、日々いくら入ってきていくら使っているのかを把握することができます。「収入と支出くらいわかっている」という方もいますが、実際につけてみると自分が思っていたのと数字が全然違った、という方も多いです。

特に会社で働いている方のなかには給与明細を見ていないという方もいらっしゃいますが、会社のお金も人が動かしますから、ときどき間違っていることもあります。手当や控除の額が間違っていて、もらうべきお金をもらえていないこともあるので、きちんと見て確認し、家計簿につけましょう。

ご自分でノートに書いてもいいですし、エクセルを使ってもいい。いまは、レシートの写真を撮るだけで家計簿がつけられる便利なアプリもあります。記録をつけて見返すことが目的ですので、記録に残したらレシートはずっととっておかなくて大丈夫です。

資産も、いまどういう資産を持っているのか、あるいは借金などをしている場合はどれだけ借りているのか、全体像をみていきます。私はよく相談者さんに「『じぶん株式会社』の社長として、損益計算書や貸借対照表をつくりましょう」とお伝えしています。損益計算書は家計簿、貸借対照表はいまある財産のリストです。難しく感じるかもしれませんが、本当の会社と違って自分のためのものですから、ざっくりでいいのです。

これからこれだけのお金が入ってくる、これだけ出て行く可能性がある。じゃあ足りないのはどのくらいだろうというのを把握します。そして足りない部分はどうやって補えばいいのか。保険に入ったほうがいいかな、そうすればこどもに残せるな、などを考えます。逆に、何本も保険に入っていて無駄なのでいくつかやめよう、なども検討できます。小さなことですが、普段使わないのに入っているサブスク(サブスクリプション。定額制サービス)があるから無駄だな、などの気づきも、家計簿をつけることでわかります。

賃貸なのか、持ち家で住宅ローンがあるのかでもお金の出ていき方が違います。お金まわりを整理することで、自分の価値観・生き方とお金の流れを一致させることもできます。

お金とのつきあい方は人生を写す鏡です。ですが、「お金まわりを整える」ことは決して我慢して節約することではありません。自分の価値観を反映させながらお金を上手に使うことで、満足感を高められると思います。

親と子の「ライフイベント」を表にしよう

――お金に関することで、ほかにお勧めの工夫はありますか。

「ライフイベントシート」と私は呼んでいるのですが、自分とお子さんのライフイベント、例えば「2030年にはこどもが中学3年生で、高校受験を控えている」など、何年に自分とお子さんが何歳で、どんなことが予定されているかを表にするんです。そうすると、いつ、どのくらいのお金が必要か、めどが立ちます。

予定だけでなく、「このくらいの年に家族旅行で○○に行きたい」「○歳でこの楽器をまた習い始めたい」など、夢や目標を書き込むのもいいと思います。そこに向かっていくら貯めようと目標になるし、モチベーションにもなりますね。

ひとり親のみなさんにお伝えしたいのは、おひとりおひとりのなかに輝くものがあるということです。お子さんのために本当に毎日がんばってらっしゃって、忙しさに追われてご自分のすてきな部分に気づきにくくなっているかもしれません。「ひとり親だから我慢すべき」とか、「社会のなかでこう振る舞うべき」などと思わずに、自分がこうしたいという思いを大切にしてください。

自分が自分を好きになって輝けば、お子さんもきっともっと「すてきだな」って思ってくれるはず。私は「働く」「投資する」「貯金する」の三つのなかで、自分が得意なことをして自分でお金を生み出してほしいと考えています。経済的に自立して、お金のことを理解すれば、主体的に人生を生きられるようになります。自分の人生を生きるための道具としてお金のことをよく知って、上手に使って、自分の人生をお子さんと一緒に生きていってほしいと思います。

安藤真由美さん

安藤真由美さん
1971年生まれ。早稲田大学商学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科終了(MBA)。国内外の金融機関、格付機関でアナリストやファンドマネジャーとして勤務した。現在はコンサルタントなどとして活動。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科でジェンダーについても研究し、だれもが自分らしく生きられる社会を目指したワークショップなどを開催。食べ歩きや料理が趣味で、料理研究家としても活動している。

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