木村理恵さん
子育てをしながら働きたい方のためのハローワークがあるのを知っていますか? ひとり親や、仕事をした経験がない方でも、働く意欲さえあれば就労のための手厚いサポートが受けられます。どんな就職先があるの? 小さな子どもがいても働ける? ――今回は、マザーズハローワーク東京室長の木村理恵さんにお話を聞きました。
――「マザーズハローワーク東京」は、仕事と家庭を両立したい方の就労をサポートする専門施設だそうですね。
1人のナビゲーター(相談員)が利用される方の担当として一貫したサポートをしています。ひとり親で小さなお子さんがいたり、介護で大変だったりと、ご家庭の状況は人それぞれ。一人ひとりのお話を丁寧に伺って、その方に合ったご案内をするのがナビゲーターの役割です。具体的にどんな仕事がしたいかが決まっていなくても、1人で悩まずに気軽に相談してもらえたらうれしいです。
一般的な「ハローワーク」との大きな違いは、「お子さま連れでも安心して相談できる環境があること」と、「勤務時間や休日融通がきく求人があること」です。こちらでは、キッズスペースや授乳室、ベビーベッドのほか、ゆったりとした相談スペースを設けており、お子さま連れでもお越しいただきやすい環境を整えています。自治体の保育情報や子育て支援サービスの情報提供を行っていることも特徴的です。
また、ハローワークの求人情報はスマートフォンやパソコンからも閲覧できますが、マザーズハローワーク専用の求人情報は窓口利用者に限定し、公開しており、来所してご覧いただくほか、ナビゲーターに連絡をもらうことで、内容を知ることができます。土日休み、残業なし、未経験可、急なお休みにも理解がある――。こういった希望に添う求人を、常時100件ほど用意しています。正社員の求人もありますが、利用される方のニーズが高いパートの求人が多いですね。
マザーズハローワークにある求人掲示板。一部には、職員が求人を出している企業を訪問したときのメモも添えてある
ご家庭の事情で働ける時間に制約があると、自信を持って面接に臨むのは難しいと感じる方もいらっしゃると思います。その点、こちらで用意している求人は、求職者に個別の事情があることを理解している企業や事業所ばかりなので安心です。お休みや勤務時間について配慮いただけるよう、私たちが事前にしっかり説明しています。面接では遠慮せずに働きたい気持ちを伝えてください。
昨年9月に今の渋谷駅近くのビルに移転してきましたが、マザーズハローワーク東京は2006年に開設し、今年で19年目になります。求人を出してくださる企業や事業所の方々との信頼関係も深めてきました。今では「マザーズさんでまたお願いしたい」と求人をリピートしてくださるところもあります。求職中の方からも、「現場にマザーズの先輩利用者がいると働きやすい」という声をよくいただいています。
ナビゲーターとの相談ブースは、それぞれ仕切りがあってプライバシーにも配慮している
――マザーズハローワーク東京は、どのような方が多く利用されていますか?
マザーズハローワーク東京を利用される方は、1日に30~40人ほどです。年代としては40代が最も多く、30代、50代、そして60・20代と続きます。
2024年度の新規利用者数は2,331人でしたが、そのうちの約75%にあたる1,739人が子育て中の方です。お子さまの年齢は1~5歳が45%で最も多く、未就学児のお子さまの預け先を探しながら就職活動をしている方が全体の6割になります。ひとり親世帯の方も約1割にあたる243人いらっしゃいました。
――どんな職種の求人が用意されているのでしょうか。
こちらを利用される方の7割が事務職を希望しています。そうしたニーズもあって、事務職の求人情報を多く用意しています。最近は、税理士や弁護士の事務所でのサポート事務の求人が増えています。事務職に次いで人気なのは、サービス業です。
マザーズハローワーク東京室長の木村理恵さん
マザーズハローワーク東京は渋谷区にありますが、世田谷区にお住まいで利用される方が一番多いですね。仕事と家庭の両立のためには、通勤時間も譲れない条件として挙げる方が多いので、そのエリアでの求人確保に努めています。ですが、どこにお住まいでもお仕事探しにご利用いただけます。新宿区や中野区、杉並区の方、神奈川県在住の方なども相談にいらっしゃいます。都内のマザーズハローワーク専用求人の情報は、日暮里、立川のマザーズハローワークと、都内に7ヶ所あるマザーズコーナーを設けているハローワークとも共有しています。
毎年秋は、翌年4月の保育園入園の申し込みが始まるため、利用者が増える傾向にあります。小さなお子さまがいると、なかなか落ち着いて話ができない場合もありますが、こちらには見守りスタッフがいるキッズコーナーがありますので安心して相談できます。相談用の個別ブースはベビーカーごと入れる広さで、お子さまと並んで相談することもできます。来所が難しい場合は、オンラインでの相談も受け付けています。
相談フロアには、キッズコーナーも完備。ナビゲーターとの相談中、見守りスタッフに見てもらうこともできる
相談フロアには、授乳やおむつ交換ができるスペースもある
――相談から就職するまでの基本的な流れを教えてください。
まずは、求職登録をします。ご自身でホームページ(ハローワークインターネットサービス)から登録していただくこともできますが、多くの方はマザーズハローワーク東京での面談を電話予約していただき、窓口にお越しいただいて登録とプレ相談をします。その後、最初にお話をうかがった担当者がナビゲーターとして、状況に応じた案内をしていきます。
たとえば、前職からブランクがあって仕事選びに迷っている方には、ナビゲーターがキャリアの棚卸しをお手伝いし、ふさわしい仕事を一緒に探していきます。ご自身のパソコンスキルに不安があるということであれば、マザーズハローワーク東京主催のパソコンセミナー(無料)をご案内することもあります。施設内のセミナールームでは、毎月さまざまな託児付きのセミナーを開いています。メイクアップ・ビジネスマナーセミナーも人気です。
セミナーが開かれる会議室。窓が大きく、開放的。窓際には子ども向けの椅子と机も用意されている。
――これまで働いた経験がなかったり、ひとり親だったりする場合のサポートは?
これまでに一度も働いた経験がなく、履歴書に何を書けばいいのかわからないという方には、ナビゲーターが相談を通してその方のアピールポイントを見つけ出し、書き方をアドバイスします。履歴書の添削のほか、模擬面接も繰り返すことで、働く意欲が就労に結びつくようサポートします。
ひとり親の方もたくさんサポートしてきました。以前、窓口にいらした40代の方は、パートで働いた経験しかない中で急に離婚することになり、お子さんを2人抱えての生活に不安を感じていらっしゃいました。事務職を希望されていたので、こちらで開催しているパソコンセミナーを通じてスキルアップしながら就活も進めていくプランを提案したところ、最初の相談から2ヶ月で希望通り、正社員事務職での仕事が決まりました。
面接の際は、ご本人の了承を得た上でこちらから企業にその方の状況を説明し、就労に理解を得られるよう働きかけもしました。採用から1年ほど経ってから離婚も成立し、「そのタイミングで給与も上げてもらえました」とうれしい報告もしてくださいました。ナビゲーターに話を聞いてもらううちに前向きな気持ちになれたのも、その方にとっては良かったようです。
面接用のスーツやバッグ、靴などのレンタルコーナー。試着もできる
マザーズハローワーク東京では面接用のスーツやバッグ、靴などのレンタルもしています。きちんとした身なりで面接に行くと企業側からの印象も良いのですが、実際の業務ではスーツを着ないのに、面接のためだけに買い揃えるのは負担ですよね。久しぶりの就活で手持ちのスーツが合わない方にも、ぜひご利用いただければと思います。
――利用される方の状況に応じて手厚いサポートをされていらっしゃるのですね。
マザーズハローワーク東京室長の木村理恵さん
子どもが成長して働き方を変えたくなった方や、正社員へのステップアップを目指す方などが、以前と同じナビゲーターを指名して転職相談にいらっしゃるケースもあります。担当のナビゲーターとは、そのときの家族構成や経済状況などかなり深い話もするので、相談を重ねるうちに信頼関係ができてくるのだと思います。
マザーズハローワーク東京は、東京ウィメンズプラザと提携し、配偶者からの暴力(DV被害)に遭われた方の就労支援もしています。DV被害に遭った女性は、男性を避けたいと考える方が多いので、こちらを訪問いただく際は、男性スタッフと会わないようにしたり、男性のいない職場をご紹介したりするなど、配慮しながら就職先を探すようにしています。
私たちは、利用される方が幸せになることを目標にサポートしています。渋谷駅近くの今のビルに移転して約1年が経ちました。少し分かりづらい場所にあるのですが、とても良い施設です。もっと多くの方にこの場所を知ってもらい、ご利用いただければと思います。相談の時点で先のことが何一つも決まっていなくても、大丈夫です。ナビゲーターと話しているうちに見えてくるものがあるはずです。
マザーズハローワーク東京
住所:渋谷区桜丘町1-2 渋谷サクラステージ セントラルビル SHIBUYAサイド10階
電話:03-5728-8609
営業時間:平日9:00~17:00
ホームページ:
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-mother/
※マザーズハローワークと、ハローワークのマザーズコーナーは、全国206ヶ所にあります。
下記の厚労省のサイトからお近くの施設を検索できます。
全国のマザーズハローワーク・マザーズコーナーの設置箇所
木村理恵さん
マザーズハローワーク東京室長。1993年4月、東京都労働経済局(現在の東京労働局)へ入職し、池袋公共職業安定所に配属。その後、都内の公共職業安定所や東京労働局職業安定部などの勤務において、求職者への職業相談、職業紹介等の業務に携わり、2024年4月から現職。