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「自分の人生、一体何なのかな……」
離婚前、そう思い悩んでいたという奥村巧さん(仮名)。当時小学生だった息子さんは、離婚直後の2年半は元妻と、それ以降は奥村さんとふたりで暮らしています。現在、元妻とも交流を続けつつ、中学生の息子さんと忙しくも穏やかな日々を送る奥村さんに、これまでの歩みやシングルファザーとしての日常についてうかがいました。
——ひとり親になった経緯を教えてください。
元妻が、家事や育児をほとんどできない人だったんです。彼女は結婚後しばらくして仕事を辞め、こどもが生まれてからは、「疲れているから」と部屋にこもるように。そのため、僕が家事や育児の一切を担いました。普段の料理や洗濯、掃除などはもちろん、こどもの学校関係の書類を記入したり、こどもが熱を出せば病院に連れて行ったり、休日もひとりでこどもを外に連れ出したり。そんな生活が、息子が小学校に上がっても続いたんです。
しばらくは疑問も持たずにいたのですが、仕事が忙しいこともあって、そのうちストレスで心身ともにすり減ってしまって。「一生この状態が続くのかな。自分の人生、一体何なんだろう」と思い悩むようになりました。あるとき友人に「それは一種のDVでは?」と言われて目が覚め、6年ほど前に別れを切り出しました。離婚後は、「やっと解放された」という安堵感がありました。
——息子さんには離婚のことをどのように話したのですか。
当時、息子は小学校中学年。理知的でしっかりした子だったので、こども扱いして変に隠すのもよくないだろうと、包み隠さず事情を話しました。すると、「パパがそう思うんなら、いいんじゃない」とあっさり理解してくれたんです。無理をしている様子もなく、当時も今も、一貫してそんな感じです。僕の都合で環境が変わり、迷惑をかけてしまうという罪悪感があったので、マイペースな息子の性格には本当に救われました。
——離婚後、生活はどう変わりましたか?
元妻が「息子と離ればなれになるのは寂しい」ということで、彼女と息子が元の家に残り、僕は部屋を借りて家を出ました。話し合いの末、監護権は妻、親権は僕としました。けれど、小さい頃から僕と過ごすことのほうが多かった息子は、大のパパっ子。離婚に関しては理解を示してくれたけれど、僕に会えなくなるのは相当つらかったようです。
息子は1日に2、3回は電話をしないと「パパに会いたい」と泣いてしまうので、頻繁にコミュニケーションを取ることを心がけました。週末や長期休みは、彼を家まで迎えに行き、僕の家で過ごす。2年半ほどそのような生活を続けたのち、元妻が新しいパートナーと暮らすことになり、息子は僕が引き取ることになりました。以降は息子とのふたり暮らしで、もう3年目になります。
——フルタイムの会社員として多忙な日々をお過ごしかと思いますが、普段の生活はどのように回しているのでしょうか。
朝は5時半には起床し、息子を起こして朝食を取り、6時半ごろ学校へ行く息子を駅まで送ります。息子の通学時間は、電車で1時間半ほど。家に戻ったら、掃除や洗濯、夕飯の下ごしらえなどの家事を一気に済ませます。
仕事は9時ごろにスタート。午前中は在宅で、昼ごろから出社することが多いですね。アポイントはできるだけ午後に入れるようにしています。18時半までには退勤し、帰宅は19時ごろ。夕飯を作って息子と食べ、仕事が残っていれば1時間ほど仕事をして、風呂に入って22時半には就寝。そんな毎日です。子育てに理解ある職場で、フレキシブルに働ける環境に感謝しています。
——息子さんが家事のお手伝いをしてくれることは?
自分の食器は洗う、部屋を片付ける、湯船を洗うといった基本的なことを、少しずつ任せるようにしています。生活力をつけておくと将来便利だということを、自分の経験から痛感していますから。
とはいえ、日々の食事作りはやはり大変。材料が揃っていて、切って炒めるだけ、という宅配のミールキットを、週に何度かは利用しています。
息子とは、彼が読んだ本の話や気になる新聞記事の話をよくしますね。彼は政治思想や哲学に興味があり、学術的な本も結構読むんです。僕がもともと歴史や政治哲学、科学などが好きで、家に本が多かったからかもしれません。「古本屋で面白そうな本を見つけたから、お金がほしいんだけど」と相談してくることもあります。将来は、学者になりたいようです。食えないよ、って話はしていますけど(笑)、好きな道に進んでくれればと思っています。
——現在、元妻さんとの交流はありますか。
週に1度は何かしら連絡を取り合っています。「送ったメッセージを息子が読んでいないようだから、読むよう伝えて」といった、事務的な内容がほとんどですが(笑)。彼女は旅行好きなので、長期休みにこどもとふたりで旅行に行くこともあります。元妻に関する話題は、特にタブー視せず、息子と普通に話すようにしています。
数年前、元妻から「息子がちゃんと成長したのは、パパの力が大きいと思う」と言われたことがあります。これまでの努力が認められた気がして、素直に嬉しかったですね。「僕の都合で別れてしまった」という、元妻に対する罪悪感も少し軽くなりました。
——ひとり親や、これからひとり親になる方へのメッセージ、アドバイスなどをお願いします。
ひとり親になる経緯も環境も、人それぞれ違うので、僕の経験談は参考にならないかもしれません。でも、「同じような境遇の人たちがじつは結構いる」ということを知っているだけでも、少しは気持ちが軽くなるのではないでしょうか。悩みや罪悪感などを、ひとりで抱える時間はつらいもの。そんなときは、ネットでもいいので離婚した人の体験談などに触れてみてください。自分を相対化することで、少し楽になれるはずです。
“ひとり親”というと、こどもを引き取って育てている側の苦労にどうしてもフォーカスが行きがちです。だけど、こどもと離れて暮らす側も結構つらいんですよ。こどもと会えない寂しさや、ひとりでいる時間の長さ……。息子と離れて暮らしていた時期、週末を一緒に過ごし、日曜の夜に家まで送り届けて、「またね」と手を振る瞬間はいつも本当に寂しかった。僕はどちらの経験もして、両方とも違った大変さがあるな、と実感しました。
じつは、ひとり親のインタビューを受けると息子に話したら、「え、親ふたりともいるから、“ひとり親”じゃないじゃん」と言われたんです。離れて住んではいるけど、お父さんとお母さんどちらもいるから“ふたり親”でしょ、と、彼にとってはそんな感覚なんですね。ずっとその感覚でいてほしいし、彼のセーフティーネットとしても、元妻とは自由に交流を続けさせてあげたいと思っています。